闇と百合とサキュバス

 その夜。久々に彼等は飲み交わしていた。
「ばっかねえ。よく確かめなさいよ」
「だってなあ。後ろ姿…いや、正面から見た時ですら、脱ぐまでは完璧だったんだぞ?」
「見た目なんて、幾らでも取り繕えるでしょうが…だからあんたは何時も腹を空かせてるのよ。ちょっとは私に感謝しなさいよ?どうせ、さっきその辺の人から分けてあげた精気も、一ヶ月ぶりとか言うんでしょ?」
「…26日ぶりだ」
「変わんないわよ。全く…もうちょっと見る目を養いなさいね。まあ、もっとも、あんたの場合…どうしてそこまで外れくじを引けるのかってくらいの運のなさも、原因の一つだからねえ…一種の才能よね」
「……」
 ふて腐れたように黙り込む男に、女性がふふっと笑う。
 インキュバスとサキュバス、種族こそ違えど長い付き合いでもある、先輩として姉のような気持ちなのだろう。
「…そっちの、お食事はどうなんだ?」
「ん〜?別に、何も問題はないわよ?私は別にえり好みもしないし、間違っても、あんたみたいに餓死寸前、なんて事はないわね。昨日も美味しくお食事したばかりだし。
 なんでも、常人の千倍は性欲があるとかいう男だったけど…まあ、精気までも千倍とはいかなかったけどね。リリス辺りなら喜びそうな獲物だったわ」
「ふう、ん……」
「ま、あんたも頑張りなさいよ。いい加減、乳飲み子じゃないんだから、さ」
 諭すように言うと、男は、早く行けとでも言うように、ひらひらと手を振った。
 そっと表に出ると、闇はなお深く、空気は鮮やかに冷たい。
 いい、夜だった。
「ふふっ……」
 知らず、笑みが洩れた。
 闇の香に、ハンターとしての本性が顔を出す。
 それは、艶やかなる変貌。
 しなやかなる獣と化す時。
 チロリと、唇を舐める。
 今夜の獲物は…誰にしよう?

 キィ、と窓を開ける。
 スルリと身を滑らせ、部屋に入り込むと、百合の香が漂った。
 …?
 そりゃあ、男でも香水とかを付けたりはするだろう、だがそういう事じゃなくて……
 何となく…嫌な予感。
 さっきの話を聞いたばかりだからと連想するのは、余りにも短絡的だが……

 ぐっすりと寝ている獲物へ近寄り、服を脱がせる。
 確認すべきものを確認し、一瞬安堵したが…次の瞬間、違和感を感じた。
 と、そこへ。
「小百合〜?寝てんの〜?」
 と、階下から、女性の、声。
 思わず、彼女は叫んだ。
「工事済みぃ!?」
 思わず、脱兎の如く彼女はその場を立ち去った。
 そして、落ち着いてから、漏らした言葉。
「あの子には…言えないわね」
 闇だけが…見ていた。


<END>



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こちらは、「闇と薔薇とインキュバス」の続編です。
が、インキュバスが見当たりません(泣)
ガラケーの人求む!m(_ _)m