いつか一つになれるまで

 ここにいよう、とボクが言った。
 ここにいるよ、とキミが言った。

 その翼を手折って?
 キミが何処へも行けないように。
 ボクが何処へも行けないように。

 飛ぶべき空は、要らない。
 行くべき未来は、要らない。

 時間から取り残されて、此処にいよう?
 世界から忘れ去られて、此処にいよう?

 キミだけが、欲しいんだ。
 キミだけが、見たいんだ。
 キミの声だけが、聴きたくて。
 キミとだけ、触れたいんだ。

 臆病なのに、貪欲なボクを。
 キミはいつも、笑って許してくれる。
 笑って、受け入れてくれる。
 だからボクはどんどん貪欲になって。
 それでもキミは、キミの優しさは、変わらない。



 柔らかに降り注ぐ光に、思わず手を伸ばす。
「どうした?相棒」
 後から降ってきた声に。ふわりと振り返る。
「うん…光。月の光に似てて、綺麗だなあ、って」
「ああ…そうだな」
 彼がゆっくりと、頷く。
 そんな彼の姿も、あの光と同じくらい、綺麗だったけれど。
 勿論本当の光ではない。
 疑似の、月だ。
「…キミに、似てるね」
「…何がだ?」
「触れたいのに触れれなくて、見えてるのに、届かない」
「触れれているだろう?」
「うん…そうだね…」
 それは、ここの部屋にいれる間だけだけど。
 このまま外に戻らなければ…ずっと許される、時間。

 ぎゅ、と、抱き付いて。
 ああ、と、思う。
 何故、ボク達は、二人なのだろう?
 ボクがいて、キミがいた。
 キミがいて、ボクがいた。
 まるで昔からそうだったように、今では違和感の欠片もなく。
 でも、だからこそ。

 腕に力を籠める。
「相棒…?」
 応えずに、ただ、強く、強く。
 このまま、彼の中に入れれば良いのに。
 全て溶け合って、一つになれれば良いのに。

 記憶を、名前を、身体を、共有してるのに。
 彼は彼で。
 ボクはボクで。
 彼はボクを相棒と呼び、ボクは彼をもう一人のボクと呼ぶ。
 それでも。

 「遠い…遠いよ、もう一人のボク……」
 飢えは、渇きは、どうすれば満たされるのだろう?
 もっと傍にいたい。
 もっと一緒にいたい。
 もっと、もっと、もっと……

 ずっと、一緒にいるのに。
 ずっと、触れているのに。
 ずっと、話しているのに。
 それでも……

 そっと、彼の喉に、触れる。
 …いっその事。
 お互いの目を、耳を、喉を、潰して。
 お互いの身体を一つに拘束したら。
 少しは満たされるのだろうか?
 それとも、彼を喰らって、その全てをボクの中に取り込んだら?
 でも、解る。
 きっとそれでも、遠く思うんだ…。



 彼が、優しくボクを撫でる。
 まるで子供をあやすように、どこまでも優しく…
「大丈夫…大丈夫だ、相棒…オレは、ここにいる…ずっと…」
「…うん……」
「オレが遠く感じるというのなら。ずっとこうして触れててやる…」
 低い、落ち着いた声で。
「オレは相棒に隠し事もしないし、オレは決して裏切らない…」
 言い聞かせるように。
「安心しろよ、相棒。オレを見れるのも、オレと話せるのも、オレに触れれるのも、相棒だけなんだぜ?」
「…うん……うん……」
 頷きながらも、それでも。
 底のない飢えを、感じていた。

 何となし、上を見る。
 頭上には、変わらず柔らかな光。
「…月が、恋しいか?」
 ゆっくりと、かぶりを振る。
「外より、何より…キミと、いたい」

 もう帰る気のない、外。
 もう見ないだろう、空。
 もう感じないだろう、風。
 懐かしくない訳でも、ないけれど。
 出たいとは、思わないのだ。

 もし、ここにずっとずっといたら。
 その内、彼を知る人も、ボクを知る人も、いなくなって。
 お互いを知っているのはお互いだけになるのだろうか?
 それはそれで、とても贅沢な独占だな、と、思った。



 …キミ、と。
 ずっとずっと、一緒にいよう。
 一瞬が連なって…いつか永遠に連なるまで。
 飢えも、渇きも相変わらずあるけども。
 答えも、相変わらず見つからないけれど。
 それでも、一緒にいずにいれないから…

 その存在を離さないように。
 ギュ、と、抱きしめる。

「いつか…一つになれると良いね…」

 そんな日は来ないだろう事は、解っていても。
 願わずには、いれなかった。