砂糖とバニラで彩る午後に

「ふんふふふ~ん♪」
 心地よい陽気。心地よい風。
 バッグの中にはさっき買ったばかりのゲーム。
 気分はまさに上々、だ。
「ふふふ~ん♪…あれ?」
 見知った顔に気付いて、足を止める。
 ショーケースをじーっと見ている、あれは…
「おーい、獏良くーん」
 手を振りながら、声を掛ける。
「あっ、遊戯君」
 獏良君は振り返ると、ふわりと柔らかく微笑んだ。
「どうしたのー?」
「あ、うん。期間限定のシュークリームが今日までで、食べに来たんだけど…」
「えー、期間限定~!?」
「うん、でもどうやら財布を落としちゃったみたいで…けど諦めきれなくて、つい、眺めてたんだ」
「え…!落としたって、獏良君、大丈夫!?」
「うん、大して入ってなかったから良いんだけど…それより…ハア…残念だなあ…」
 本当に残念そうに、獏良君が溜息を付く。
 財布よりシュークリームの方を気にするなんて、本当に好きなんだなあ…
「よしっ!じゃあ今日はボクが奢るぜー!」
「え…?そんな、悪いよ」
「いいよいいよ、ボクも気になるし。美味しかったんでしょ?」
「うん、ホントに美味しかったよ」
「じゃあ決まりだぜー」
「でもホントに悪いよ」
「大丈夫!一人で食べるより、友達と一緒に食べた方が美味しいもん!その代わり、今度はボクにハンバーガー奢ってね?」
 悪戯っぽく笑うと、獏良君はクスッと笑った。
「うん、それなら。解った、約束するよ」
「へへっ、約束だぜー♪ じゃ、入ろっか♪」
「うん!」



 時々来るという獏良君に、オススメをオーダーして貰う。
 こういう店は初めてだけど、結構心地良かった。
「獏良君は、いつも一人で来てるの?」
「うん、あんまり他に誘う人もいないからね」
「へー、じゃあ今度はボクも誘ってよ。あと、みんなもきっと気に入るよ」
「ふふっ、そうだね、今度はみんなで来よっか」
「うん♪あ、ボク達の来たかも」
 予想は当たっていて、運ばれてきたのはボク達のだった。
 テーブルに置かれたそれに、期待が高まる。
「美味しそー!いっただきまーす♪」
 パク、と一口。
 途端に口に広がる、甘い味。
 うーん、幸せ―。
 思わず目を閉じる。
「美味しー☆」
「ふふっ、気に入って貰えて良かったよ」
 心から嬉しそうに、獏良君も微笑む。
 ああ、入ってホントに良かったなあ、と、つくづく思った。
「そういえば、遊戯君は何してたの?」
「ボクは前から欲しかったゲーム買いに行ってたんだ、ほらコレ!」
 ガサゴソと、袋を開けて見せる。
「これ…TRPG用のマスタースクリーン?」
「うん♪やっぱすぐ解ったかー」
「ふふ、勿論解るよ。でもコレ…もしかして、オリジナル用?」
「へへっ、流石獏良君だぜー♪ うん、オリジナルシナリオを作りたくなって。できたらボクがゲームマスターをして、みんなで一緒に遊びたいなー♪」
「ふふっ、楽しみだなー。ボクも絶対誘ってね」
「うん、勿論だぜー♪」
「他にも買ってきたの?」
「うん、キャラシートやルールブックや、ダイスもね。取り敢えず10面体と8面体、4面体だけ買ってきたんだ」
「へえ、シートとブックもオリジナル用?」
「うん、あと、サンプル用に、既存のも一つ。最初はそれを参考にしようかな、って」
「ああ、それが良いかもね。最初に凝り過ぎると、キリが無くなってゴチャゴチャしちゃったりもするし」
「獏良君も経験あるの?」
「うん、ちょっと設定を詰め込み過ぎちゃってね、ルールが凄く複雑になっちゃったんだ。だからその後は、なるべくシンプルにするように心掛けてるよ」
「そっかー、じゃあ、ボクも気を付けるよ。ありがとう、獏良君♪」
「ふふ、どう致しまして。もし道具が足りない時は、いつでも言ってね。大抵の物は揃ってる筈だから」
「うん解った♪ありがとう♪」
「ふふっ…」
 頼もしい言葉に、釣られてボクも笑う。
 ああ、いいなあ、と思った。
 獏良君とゲームの話をするのも、やっぱり凄く楽しい。
 ほんわかしていると。
「あっ、獏良様ー!」
 覚えのある高い声。
 恐る恐る振り返ると…
「きゃー、こんな所で会うなんてー☆何してらっしゃるんですかー?☆」
 言葉の全てにハートマークが付いてそうな、はしゃいだ声。
 思わず獏良君と顔を見合わせて、苦笑する。
「遊戯君とちょっと休んでたんだけど…」
「えー、私も是非ご一緒したいですー☆」
「ゴメンね、もう帰るところなんだ」
「えー、残念ですー…ちょっとだけ…ダメですか~?」
「ゴメンね、ちょっとボク達行く所があるから…」
 獏良君の代わりにそう言って、そそくさと席を立つ。
「獏良君、先に外に出ちゃっててよ」
「うん解った、ありがとう。 …じゃ、ゴメンね」
 明らかに不満そうなクラスメイトに、声を掛けてから獏良君が先に出る。
 恨みがましいオーラを背中に感じながら、ボクもレジに向かった。



 外に出て、うーん、と伸びをする。
「はー、ビックリしたぜー」
「ゴメンね、ゆっくりできなくて」
「獏良君のせいじゃないぜー。にしてもシュークリーム美味しかったなー」
「ふふっ、良かった」
「シュークリームはいつもここなの?」
「いや、ここと、あと駅の方に二軒あるんだ。そこの限定味も美味しいんだよ」
「今も限定味売ってるの?」
「うん、確かあった筈だよ」
「へー、じゃあ折角だからそっちも寄ってみようよ、話の続きをしようぜー♪」
「ふふっ、うん、喜んで」
「へへっ、案内ヨロシクだぜー♪」
「ふふっ、こっちだよ」
 並んで一緒に歩く。



 この楽しい午後は、まだまだ終わらない。