麗しの花嫁 前編

『第一章 真昼の悪夢』


「〜♪」

頭の回りに音符を撒き散らしながらご機嫌な様子で花に水をやっているのは、蔵馬である。

「随分と今朝は機嫌がいいなぁ。彼氏…じゃなかった、彼女でも出来たのか?」

思いっきり本気で間違えて、慌てて訂正したのは、幽助である。

普段なら、『かれ』まで言った所でその頭に毛に覆われた耳でも見えそうなものなのに、

今朝は相変わらず音符を飛ばしている。

そうとう機嫌はいいらしい。

「やだなぁ、彼女なんか出来てませんよぉ。あ、もちろん彼氏もですよ?

 機嫌良さそうに見えます?」

見えるも何も思いっきり主張しているのであるが。

本人、全く気付いていない。

「ほら、この花。今年は特に良く育ってくれたものですから」

愛しそうに、指した花を蔵馬が見つめる。

花に見せてやるにはもったいない笑顔である。

「へえ…可愛いじゃん」

果たして、どちらの『花』に向けて言ったものやら。

どちらとも判別しかねる声色で、幽助が感想を述べた。

「でしょぉ?今年は1週間も早く咲いたから嬉しくて」

そう言ってにっこりと笑った顔は、蔵馬のお気に入りのどの花よりも艶やかに咲き誇っていた。

幽助が何か言いかけようとする。

と、そこに新客が。


 グシャッ


「ん?」

何かを踏み潰したような音と共に庭に現れたその男の足元には……

蔵馬のお気に入りの、1週間も早く咲いたとかいう花が、あった……。

途端に固まる蔵馬と幽助。

尤も、その理由には若干差があったわけだが。

その様子に首を捻った少年――飛影は、二人の視線の先を辿り、その先にあるものに気付いた。

「ああ…何だ、踏んでしまったのか」

まったく悪いと思っていなさそうな態度である。

蔵馬が、フルフルと震える。

様子に気付いた飛影が、とりあえず謝罪―もちろん、形だけであるが―の言葉を述べる。

「すまんな」

果たして――飛影はその1秒後に蔵馬の鞭によって、『目には目を』的返礼を受ける事となったのである。

「何しやがる!」

自分が悪いとは欠片も思ってはいない飛影が、叫ぶ。

「何、じゃないでしょう!この花、どうしてくれるんですか!?」

「謝っただろが!」

「あんなものは謝ったとは言いません!」

少し離れたところで少々怯えた体(てい)で成り行きを見守る幽助。

少しばかり哀れを誘う様子である。

火花を散らす二人。矛盾しているような気がしないでもないが、

二人の間を凍りつきそうな程冷たい風が吹き抜ける。

「フン。女じゃあるまいし、こんなものが何だっていうんだ」

「こんなものですって!?

 大体が、女じゃなかったら花を愛でてはいけないという決りでもあるんですか?」

…まあ、多分無いであろう。

「こんなものだろうが、女々しい奴めが。

 いっその事、女になってしまったらどうだ? きっと何の矛盾もないぞ」

「何ですって!?俺の何処が女っぽいって言うんですか?」

「充分女っぽいだろうが。

 ああ、お前ならわざわざ性転換するまでもないか。 今のままでも十分女で通用するもんな」

…ブチッ!

何かが切れる音がしたような気が、した…

「ほほぉ…そーゆー事を言いますか…」

こ、恐い…

というのは、幽助の叫びである。当然、心の中だけではあるが。

「貴方だけには言われたく無いですけどね。万年少年」

「こっちこそ、お前には言われたくない。年中バラ女めが」

「いつまでたっても幼児体型な方よりマシかと思いますが?」

「多重性格な女の成り損ないよりマシさ」

ねえ、論点ずれてない?

ていうか飛影、何しに来たの?

…と、突っ込みたくても突っ込めないでいる哀れなる存在は、すっかり忘れ去られている幽助である。

「ひねくれ餓鬼よかマトモですよ。貴方こそ女になってみたらどうです?可愛いって評判ですよ?」

って、どうやって耳に入れたのさ?

「御免こうむるさ。お前ほど可愛いわけでもないしな」

「いえいえ、貴方には負けますよ」

にこにこ、にっこり。

実に穏やかな微笑みで言い合う二人…南無阿弥陀仏(←?)

さてそこでひらめいた幽助。

何といっても転んでもタダでは起きない的精神の持ち主ですから。

「そだ!お前らそこまで言うならどっちが男らしいか、競ってみたら?」

?となって幽助を見つめる二人。

「ちょうどよく『理想の花嫁コンテスト』なるものの出場者募集中だし、それに出てみれば?」

「何で男らしさを競うのに花嫁なんですか?」

「そりゃ、負けた方が男らしいって事でいいじゃん」

…そういう問題か?

ていうか何でそんなものが?

ていうか何でお前が知ってる?

という事はまあ置いといて。

考え込んでいた蔵馬は、何か釈然としないながらも、乗せられてやることにしたようである。

「まあ、いいでしょう…」

「勝手にやってろ。俺は出んぞ」

「まあまあ、いいじゃねぇか、飛影。

 出ないとお前の方が女らしい事になるぞ?」

「そんなもんは知らん」

「逃げるんですか?」

「何を馬鹿な」

「じゃあ出るんだな。ハイ、決り」

…;

こうして、理想の花嫁コンテストに出場させられる事になった二人…いやはや、どうなる事やら;



『第二章 料理勝負』


さて、こちらはコンテスト会場である。

天女もかくやと思えるほどの美姫達の中でも、とりわけ目を引く姫君が二人……

蔵馬と飛影であったりする(笑)

二人ともいささか不機嫌な顔をしているものの、

その姿はしっかりと『姫君』であるのだから……いやはや。

蔵馬は問題ないとしても、飛影の方はどうかと思っていたのであるが、

少々目つきが気になるものの、14、5の少女に化けている。

どうやら、変身草の一種でも使用したらしい。

それにしても、飛影がひざ丈の可愛らしいワンピースを着ているのは、笑えるものがある。

大方、幽助に無理矢理着せられたのであろう。

蔵馬の方はというと…

深紅の、少々体の線の出るロングワンピースである。

これが異様に似合っている。

これも自分で着たとは思えないので、やはり無理に着せられたのであろう。

どうやら、二人の不機嫌な表情の理由は、コンテスト出場だけではなく、

その服装のせいでもあるらしい。

蔵馬もまた、知り合いに出合うとマズイからであろう。

基本的な顔の造作は変わっていないものの、クラスメート程度なら蔵馬とは気付かぬ顔付きである。

さて、ようやくコンテストが始まるらしい。

威勢のよいお兄さんがでてきた。

「さーて、今回より開かれる事となりました、『理想の花嫁コンテスト』!

 記念すべき第1回目として、商品も豪華なものとなっております!

 一つ目は、スタールビーの指輪!

 二つ目には、ティアー・ドロップの首飾り!!

 そして、最大の目玉、三つ目の商品は!

 女性なら誰でも1度は着たいと願う、純白のウェディングドレス(ダイヤ付き)です!!!

 さあ、栄光は誰の手に?輝け、麗しの姫君達よ!!!」

お前、張り切り過ぎじゃ?と思っていたら、そこまで言ったところで息が切れたらしい、肩で息をしている。

さしだされた水を一気に飲もうとして咽る始末;

…セリフといい、この男、新人だな。

さて、ここに至って蔵馬と飛影の心境に変化が。

二人の目は商品をジッと捉えている。

蔵馬:

優勝して女っぽいという事になるのは嫌だけど…あの商品は欲しいな…
流石に母さんには派手だけど、売れば結構な金になるだろうし、
それで充分いいものが買えるよな…
大体、母さんは飾りっ気が無さ過ぎるんだよな…
まだそれほど歳ってわけでもないんだし、もうちょい装えばいいものを…
もうじき誕生日だし、丁度いい機会だよな…
オレの学校バイト禁止だし、大体がいつトラブルに巻き込まれるか判らないから、
どうしようか迷ってたところだし…(省略)


飛影:


雪菜に似合いそうだな…
年頃なんだし、もうちょっと着飾ってもいいのに、
宝石とかは自分から買おうとはしないものな…
この機会にプレゼントしてやるのもいいかもしれんな…
いや、でも着飾って変な男に目をつけられるのも困るか…
でも宝石を送られて嫌がる女はいないというし…(省略)


二人とも、その素晴らしい頭脳をフル活動させてしまっているらしく、

その思考はしばらく止まりそうにないので省略しよう。

さて、復活したらしい司会者の言葉で二人の思考はようやく止まった。

「さて、第一の課題は、料理です!

 花嫁たるもの、料理のひとつも出来なくては!!

 どのような料理でも構いません、得意な料理を披露してください!!!」

ここでまたこの司会者、先程と同じ事を繰り返した。

…どうやら学習能力は無いようだ;

「料理、ですか…飛影は作れるんですか?」

「当たり前だ。俺は優秀なんでな」

「無理しなくてもいいですよ?

 自分の方が女らしいと思っているのなら別ですが」

「フン。お前こそ手を抜いたらどうだ?

 幽助に、自分が女らしいと主張する事になるぞ」

二人の笑顔の間に火花が見える気が…

頼む、まだ料理を始めてもいないのに火を起こさんでくれ(何か違う;)

さて、再び復活した司会者が、始まりの合図をした。

さてさて、どうなる事やら。



「おっと、蔵馬さんは、実に華麗なる手腕を披露してくださっています!

 どうやらこれはイタリア料理のようです!

 なかなか美味しそうで、思わずつまみたくなってしまいます」

見ると、蔵馬は踊るような美麗な仕草で矢継ぎ早に仕度をすませている。

…ん?

材料にはないはずのハーブが使われている。

どうやら、勝手に取り出して使っているらしい。

職権乱用…じゃなかった、能力乱用ではあるまいか?

しかもこれは、どうやらフランス料理のようである;

「こちら、飛影さんですが…圧倒されるような豪快な料理です!しかしこれは食えるのか?」

はい?と思うようなコメントを与えられた飛影を見ると…

切られずに直接火に放りこまれている鶏、油が使われていないらしい野菜(多分;)炒め、

魔女が好んで作っていそうな何かのスープらしきもの…;;;

しかも、コンロ等の使い方が判らなかったのか、自分で呼び出した炎を使っている;;;

「こちら、晶子さんですが…あの、大丈夫ですか?随分重そうですが…」

晶子さんと呼ばれた女性は、かの有名な、兎の出てくる話の主人公、

アリスのような可愛らしい少女である。

ふわふわくるくるの長い髪にフリフリのエプロンドレス、

細く小さい頼り無げな華奢な体…庇護欲をそそられる少女である。

少女は見た目を裏切らずか弱いらしく、運ぼうとしている材料が重いらしくてヨロヨロしていて、

今にも転びそうな危なっかしい様子である。

もちろん、料理にはまだ全然手がつけられていない;

「あ、あれっ?美輪子さん、料理はこれだけですか?」

問われた女性は、蔵馬には負けるものの(笑)素晴らしい美女であるが、

料理はごく一般的な家庭の、一般的な朝食といったところである。

「フッ…私の美貌こそが最高のご馳走だとは思わなくて?

 私と共に食せるというだけで、どんな料理も何にも勝るご馳走になるというものよ」

「あのー、それ、焦げてますよ?」

「ええ!?嘘、どうしたら…?」

とたんにパニックになった女性。

…どうやら、単に料理が苦手なだけだったらしい;



そんなこんなで、時間終了。

蔵馬の料理は、見た目も味もなかなかだったようであるが、

材料にないハーブを使用していた事で、随分と減点されたようである;

飛影はというと、その見た目から試食してもらえなかったらしい;

ちなみに、晶子と美輪子の二人はというと、結局料理を作る事が出来ず問題外であったようである……;;;