プレゼント

「クリスマス、ですねえ……」
 蔵馬が、呟く。
「クリスマス、ですよ?」
 また、囁く。
 独り言のような言葉はベッドに座っている少年――飛影に向けられたものである。
 飛影は、聞こえているだろうに、知らないふりをしている。
「ひーえーいっ」
「わっ」
 蔵馬が、後から手を回し、その体を抱きすくめる。
「クリスマスなんですってばあ…」
「放せっ、うっとおしい!」
 怒鳴る飛影に、今度は蔵馬が聞こえぬふり。
「年に1回の祝い事じゃないですかあ……」
「『年に1回の』祝い事は、掃いて捨てる程あるだろが!」
「でもぉ、クリスマスは1回だけなんですよお?」
「知らん」
「ひえいってばあ」
 つれない飛影に、それでも諦めない蔵馬。
「たまにはお願い聞いてくれたっていいじゃないですか…」
「……」
「むー…」
 飛影を口説くのは、さしもの蔵馬も難しいらしい、うめいてしまっている。
「ったく…何でそんなにクリスマスにこだわるんだ」
「だって、楽しいじゃないですか。キラキラ光るツリーがあちこちに飾られて、何処で流れる曲もクリスマスソングで、街角にはサンタの格好の人がいたりして、恋人達が微笑みつつ手をつないで歩く…素的じゃないですか」
 恋人のくだりは微妙に違うと思うが……
 うっとりと妄想モードな蔵馬。
「何処がいいんだ、それの」
「え〜良くないですかあ?何処もかしこもクリスマス1色なんですよ?心が踊るじゃないですか」
「俺は踊らん」
「つ、冷たい……」
 よよよ、と泣き真似をする蔵馬。
 飛影は完璧無視モードである。
「恋人のお願いぐらい、聞いてくれたって…」
「……」
「こんなに頼んでるのに…」
「……」
「飛影は俺の事なんか愛してくれてないんだ…」
 流石に穏やかではなくなってきたのか、飛影の表情が変わる。
「俺はこんなに愛してるのに、飛影は俺の事が嫌いなんだぁぁ…」
「判った判った!何をしたいんだ貴様は!」
 耐え切れずに叫んだ飛影の言葉に、とたんに満面の笑みを浮かべる蔵馬。
「街に行くなんてどうです?」
 にっこりと、実に嬉しげに蔵馬はそう、言ったのだった……

「ひーえーいっ!ほら、早く!」
「そんなに好きか?クリスマスとやらが」
 呆れたようにいう飛影。
「だってほら、キラキラでウキウキでワクワクじゃないですか」
「何だそれは;」
 とは、飛影でなくても言う事だろう。
「ったく…何が楽しいんだか」
 その言葉に、蔵馬が飛影の顔を覗き込む。
「楽しいに決ってるじゃないですか、貴方といるんだから」
「…〜」
 飛影の顔に、朱が走る。
 それを見て、蔵馬がクスッと笑う。
「ほら、行きましょう」
 その言葉に俯きつつ従う飛影。
 珍しく、素直である。
「あ」
 ショーウィンドーを見ていた蔵馬が、声を上げる。
「可愛い〜」
 その、真っ白な雪兎のぬいぐるみは確かに可愛かった。
「何だ、ああいうのが好きなのか?」
「ん〜、だって、可愛いじゃないですか」
 その『可愛い』笑顔を見て、何やら思いついたらしい飛影。
「ちょっと待ってろ」
「飛影?」
 飛影が、いきなりトトッと走りだす。置いて行かれた形の蔵馬は、訳も判らず途方に暮れてしまった。
 少しして、飛影が店から出てくるのを見て、ホッとする。
「ほら」
「え?」
 小さな包みを渡されて、戸惑う蔵馬。
「クリスマスには、プレゼントを渡したりするものなんだろ?クリスマスプレゼントだ」
「えっと…」
 その言葉で包みの中身を知った蔵馬は、ちょっと困惑気味。
 気持ちは判るが、男にぬいぐるみをプレゼントってのもないんじゃないか?飛影。
「嫌か?」
 飛影が、ジ、と蔵馬の瞳を見つめる。
 まいっか。
 諦めたように息をついて。。
「嬉しいよ、飛影」
 にっこりと、艶やかな笑顔で答える蔵馬。
 きっとそれは、飛影への何よりのクリスマスプレゼント。

 Merry Christmas!

全ての人の夜に、祝福を。