月下花眠

目が覚めた時に、隣に誰かがいるという事。

真夜中。

窓から洩れてくる月の光で、ボンヤリと浮かぶ顔。

警戒の欠片も見えない、その表情。

ジッと見つめて。

綺麗な顔だと思った。

それを見つめるのが好きだった。

闇はそれを隠したがるけど、月が優しく照らしてくれていて。

月は優しい。

けれど月は何もしてはくれない。

泣いていたって、慰めてくれるわけじゃない。

一人でいるとき、その光に包まれていても結局は一人で。

でも――。

一人じゃないって、教えてくれる。

夜に目が覚めた時、こんなに綺麗な物を、見せてくれる。


夜。

昔は。

ただ、ジッとしているだけだった。

木の上で、葉っぱに包まれて。

ときどき、石を見ながら。

月の光に照らして、見つめながら。

夜の女神が、早くそのヴェールを取るのを、待っていた。

静かだった、夜は。

あまりに静かで、ちょっとした物音があまりに大きくて。

夜は安息と、そして恐怖を宿した時間だった。

そのうちに恐怖は消えても、夜は変わらず静かで。

不思議な世界だった。

まるで、世界の全てから切り離されたような……


今も、夜は静かで。

でも。

昔は冷たいだけだった空気が。

暖かい……



「ん?」

蔵馬が、微かに身じろぐ。

ゆっくりと、開かれる、目。

「飛影?どうしたの?」

「…蔵馬…綺麗だ」

少しだけ驚いたような表情になり、それが嬉しそうな顔になる。

「飛影も、綺麗だよ」

言われて、何となし顔が熱くなる。

「寒くない?」

「…少し」

蔵馬がにっこりと微笑む。

「おいで」

抱き寄せられて、口付けをされた。

蔵馬の唇は、少し暖かかった。

「おやすみ」

にっこりと笑って、蔵馬がいう。

もうちょっと、見ていたかったけど。

そっと、目を瞑る。



おやすみ…よい夢を。

月が優しく、囁いた。

優しい夜に、祝福を。

The end.