be fall..
―貴方に堕ちてもみたい―

「ふ…ぅん…」
堪えようとした声は、けれど叶わず唇から洩れた。
自身の中心が、それにすら熱く疼く。
「…は……」
極限まで振り絞られた弓のように、身体は限界を訴え、解放を願っていた。
必死で耐えようとするが、この身体に与えられる刺激は止まず…更に昂ぶって行く。
「いい様だな、蔵馬」
飛影が愉しげに囁く。
顔を覗き込むのに、顔を逸らしてその視線を避ける。
「伝説にまでなって畏れられた極悪非道の盗賊が」
言い終らぬうちに、飛影が今この時最も熱を帯びてる部分を握り締める。
「っ!」
息を飲み、反射的に唇を噛み締める。
その反応に、飛影が薄く嗤った。
「そんな顔をするのだからな」
嬲るような飛影の言葉に、固く目を瞑る。
いや…真実彼は嬲っているのだ、俺を――彼を裏切ってしまったこの俺を。
記憶の箱を開けて過去の映像が脳裏に甦り、とうに治ったはずの腹の傷が疼き出す。

オレが彼を裏切った。
オレが彼を傷付けた。
これはオレの罰――

『お前が俺を愛してるというのなら、耐え切ってみせるがいい…愛しい者の頼みだ、断る訳があるまい?』
彼に与えられた言葉が、耳の中反芻する。
オレは、耐えなくてはいけない。
彼がそれを望み、そしてオレにそう告げた以上。

けれど……!
ギュッと目を瞑る。
快楽に溺れてしまいそうになる。
何もかも忘れて、身を投げ出したくなる。

「fallen-angel's kiss」――そう名付けられた、それは。
その名の通り、甘美な夢に人を引きずり込む薬だった。
薬に慣れたこの身体にもそれは強力に過ぎて……気が狂わないようにするのがやっと。
けれど、それも怪しいものだ、と思う。
この意識はすでに、堕天使の誘惑に負けそうになっているのだから……

「…は、ぁ……」
白い息が吐き出される。前の息が消えぬうちに、新しいそれが重なる。
乱れた呼吸と共に、切ない声が喉を震わせる。
目尻に涙が溜まり、視界が僅かにボヤける。
「どうした?」
「あ……」
涙が、溢れる。
抱いてください――。
喉元まで込み上げる台詞を、必死で飲み込む。
けれど音とならなかった願いは代わりに瞳に宿り……
「……」
飛影の瞳を、ジ、と見つめる。

狂ってしまいたい。
沸きあがる欲望のままに。
なにもかもかなぐり捨てて…全てに目を背け、耳を塞ぎ。
溺れこんでしまいたい。
その足元にひざまずき、愛して欲しい、と懇願したい。
怒りを、嘲りを、一身に受けて。
残酷に支配されたい――

間違っている。
狂っている。
歪んでいる。
けれど――

「…えい……」
訴える。
「ひえい……」
その残酷な支配者に。
「何だ、もう終りか?お前は俺の事が好きなんじゃなかったか?」
「好…きだよ……」
好きで好きで仕方がない。
どれほど歪んでいたとしても、それは紛れもない真実。
「好きだから…飛影が欲しいよ……」
嗚咽交じりに告げると、飛影がフ、と微笑んだ。
皮肉気な、嘲笑交じりのそれ。
信じてはいない眼だ、と思う。
当然だろう、1度は彼を裏切った身なのだから……
信用を失うには、瑣末なそれで充分。
けれど。信用を取り戻すには、信用を手に入れる努力の10倍を要する。
今また彼に告げられた事を破棄しようとしている身であれば直の事、難しいだろう。
それでも。
彼を傷付けると判っているのに…願わずにはいられない。
薬のせいだけではないだろう。
優しく愛されるより、激しく抱かれたいと願ってしまう自分が確かにいるのだから。
あさましいこの身体……。
傷つけたい訳ではない、傷つけられたいのだ。
彼を傷付けた分…いや、それ以上に。
償いではない。贖いでもない。
ただ……


飛影の足元に引き寄せられるように膝をつき、飛影のそれを口に含んだ。
そうする間にも、涙が溢れて仕方がなかった。
しばらくして、突然髪を捕まれて後に引っ張られた。
バランスを崩し、地に倒れる。
そこへ飛影が被さり……
「ひっ!」
何の準備もされていなかった秘部を貫かれ、激痛が襲う。
けれど、感じるのは痛みだけではなくて……
「飛影っ!飛影っ!」
狂ったように、叫ぶ。それは正気に繋がる唯一の道……
いや、もうそれはすでに意味を為さないだろう。
大事なのは、飛影が愛しいという事、そして飛影が抱いてくれているという事だけ。
ただ、堕ちて行きたい。
「あ…あーーーっ!」
ふわり、と浮遊する感覚。
意識が闇に呑まれる前、彼が冷たく微笑んでいたのは…見間違いだろうか。