獣に抱かれて

 今夜も貴方は気紛れという名の獣に導かれ、オレの元へと現れる。

 オレが拒めぬ事を知っていて、オレをその瞳で誘う――





「やっ……」

 飛影の口付けを、拒む。

 触れかけた唇が…熱い。

「嫌?いつもやってる事だろう?」

 言われて、カッと赤くなる。

 覚えがあるからこその、反応。

「なあ、蔵馬……」

 再び飛影が唇を求めて来る。

 それに今度は目を閉じただけで、拒む事はできなかった。

 熱が…唇から全身に、広がってゆく。

「蔵馬……」

 飛影が、その唇でオレの名を囁く。

 その、甘い呪縛。


 スルスルと、飛影の手が、衣を剥ぎとってゆく。

 逆らう気には、なれない。

 拒もうとしても…体が求めてる。

 口付けを交わしてしまえば、抵抗などそこで終り。

「お前は、オレのものだ……」

 …でも、貴方はオレのものではない。

「逆らう事は、許さない」

 …逆らっても、そんなの貴方には関係ないくせに。
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 飛影の唇が、胸に降って来る。

 体がビクリ、と強張る。

 嫌悪によって、ではない。

 どうして愛しい人のそれに嫌悪感など抱けよう。

 くすり、と飛影が笑う。

 …判ってるのだ、この人には。

 判っていて、やってるのだ。

 飛影にとって、オレの苦しみも、葛藤も、全て……楽しみでしかないのだ。

 それを知っていながら…それでもオレは飛影を拒めないのだ。

 愛されてない事も、傷付くだけな事も、全て判ってはいるのに……

「蔵馬…お前はオレを拒めない、決して」

 …ああ、その通りだよ。

 飛影が呪縛の言葉を囁く。

 それは魂にまで刻み込まれ、オレを縛り付ける。

 飛影の紅い瞳が、闇の中浮かびあがる。

 その、月と同じ…恐怖の象徴たる色。

 飛影は…獣だ。

 捕えた獲物を見つめるような目で、飛影はオレを見据える。

 食われるのだろう、オレは。

 心はその爪に引き裂かれ、血を流してる。

 獣の本性そのままに、この体も食らってしまえばいいのに。

 体の中心を飛影に吸われ…思う心が波に攫われる。

「ああっ……」

 この波が。

 消えなければいいのに……



 身体を解放されて。

 ベッドの上に四肢を伸ばし、倒れる。

 何故、オレは飛影に逆らえない。

 飛影を愛しているからか。

 愛してなどくれない、これからもそれを望めない相手なのに。

 なのに何故惹かれてしまう。

「…ろせ……」

 それは、願い。

「殺してよ!」

 それは、希望。

 けれど。

「冗談」

 短く、拒否される。

 そして降って来る口付け……

 飛影が耳元で囁く。

「言った筈だ、お前は俺のものだと。逆らう事も、拒む事も、許さん」

 …殺してくれればいいのに……

 絶望に閉じた瞳の奥で、闇が広がる。

 この闇に消えてしまえたら……

 思う心が口付けに攫われる。

 そしてまた身体に熱が与えられる。

 長い長い夜の、今はまだ始まり。

 終らなければいい、そう思う。

 この夜がずっと続けばいい、そう思う。

 ずっと、オレを抱いているといい。

 何も考えられないよう、深く、激しく。



 闇に、捕われる。

 視界の端には紅き瞳の獣……



 殺シテヨ……



 貴方が殺してくれないのなら。

 希望も絶望も、願いも全て。

 その熱で消してれくれればいい。



 そうすれば。



 貴方ニズット抱カレテイラレルノニ……