浮気の罰

 オレは。一瞬何が起こったのか判らずに、ただ呆然としていた。
 というのも、オレが起きて真っ先に目に入ったものは、格子だったからである。
 ここが座敷牢、と呼ばれるものだろうとは判ったが…何故そこにオレがいるのかが判らない。
 必死で記憶を探っていると、足音がした。
「目ぇ覚めたか」
「ゆう…すけ?」
「それ以外に誰がいるよ」
「オレ…何でこんなとこに?」
「浮気した罰」
 ポンっと言われて、一瞬固まる。が、そんな場合ではないのだ。
「オレ、浮気なんて……」
「昨日の飲み会で同僚の女とキスしただろーが」
「あ、あれはあの子が突然……」
「でもキスした」
 頭がクラクラする。
 幽助は意外と嫉妬深かったらしい…いや、子供っぽいだけか?
 キスしたのならともかく、あれはされただけだ。
 誓って、浮気などではない。
「だからって…それにこれって犯罪……」
「鍵はかけてないぞ」
 幽助の常識に訴えようとしたところ…幽助は戸を開けてみせてくれたりしたのだ。
 今度こそはっきりと目眩を覚える。
「い、意味ない……」
「かけたら犯罪だろーが」
 幽助にも常識はあったらしいが……中途半端な常識ではあるまいか?
 鍵のかかってない牢など何の意味があるのか。
 いや、かけられても困るが……
 とりあえずはここが幽助の家だとすると、危険はない訳で…いや、別の意味で危険な気もするが…とりあえず休む事にした。
 座り直し、ふと、気付く。
「幽助…この座敷牢ってどうしたの?」
「この前捕まえた小妖怪が大工みたいな奴だったんで丁度いいから作らせた」
 あっさりと幽助が言う。哀れ、小妖怪。
 ふと視線に気付いて辿ると、幽助がジ、とこちらを見つめていた。
「…? 何?」
「いや…何か遊郭みたいだな〜と」
 いきなり何を言い出すのか。
 だが、その言葉にふと悪戯心が浮かびあがった。
「なら…気取ってみる?」
「いいねえ」
 ニ、と幽助が笑む。
 その表情に、もしや最初から狙っていたのでは、等と思ってしまった。
「兄さんあちきと遊ばない?」
「代価は?」
「兄さんの許しを一つ」
「安いもんだ」
 幽助が笑んで、唇を重ねる。
 オレはそっとそれに応えてやった。



 朝。目覚めると俺は1週間前に蔵馬を閉じ込めた座敷牢の中らしいところにいた。
「え、え〜と? 何でオレはここにいるんだ?」
 とりあえず、自分で入った記憶はないが……
 頭をかかえていると、声が降ってきた。
「浮気した罰」
「く、蔵馬…?」
 確かにこの状況で蔵馬以外がいるはずはないのだが、状況が状況なだけに一瞬驚く。
「昨日蛍子ちゃんとキスしたでしょう」
 言われて、サーっと血の気が引く。
「あ、あれは弾みで……」
 自分でも言い訳にすらなってない事が判る言葉をモゴモゴと呟く。
「酔ってようが何だろうが、それは浮気です」
 ピシャリ、と言い切られる。
情けないが、非を認めてるだけに言い返せない。
「そういう訳で、今日は1日そこで反省してくださいね」
「で、でも鍵はかかってないはず……」
「かけましたよ、ほら」
 言って蔵馬が見せるのは、紛れもなく鍵である。
「ど、どうしてそれを……」
「忘れてるでしょうが、オレは元盗賊ですよ? 探し物は得意ですから」
 言って蔵馬がにっこりと微笑む。
 それが恐ろしく見えるのは何故か。
「は、犯罪だぞ?」
「恋する男に犯罪など怖くはありませんよ♪」
 にこにこ、にっこり。
 こ、こうなれば…
 俺は最後の手段に出た。
「兄さん、あちきと遊ばなーい?」
 一生懸命誘ってみる。
 が蔵馬の洩らした言葉といえば。
「一生やってれば?」
 呆れた響きが多分に含まれている、言葉だった……

The end.