仔猫な1日

雀やカラスが五月蝿く鳴いています。
目が覚めた蔵馬君は、時計を見ようとして、何となく違和感を覚えました。
???
とりあえず起き上がってみると、やけに天井が高く見えました。
ベッドもいつもより大きい気がします。
??????
困惑した蔵馬君の目に、鏡が映りました。
何となく見てみて、驚きました。そこに、自分の姿がなかったからです。
映っているのは、小さな仔猫だけでした。
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頭はパニックをおこしています。
とりあえず現実逃避をして再び寝ようとした蔵馬君の部屋に、一人の男の子が入って来ました。
入ってきた男の子は、蔵馬君のお友達の飛影君でした。
「なんだ、いないのか」
飛影君は、そう呟くと帰ろうとしました。
必死で蔵馬君は声をかけました。
「ミャァ〜ミャァ〜」
声は、猫の鳴き声にしかなりませんでした。
悲しみが、蔵馬君を襲います。
「ん?」
飛影君は、蔵馬君の声に振り向きました。
「何だ、お前。蔵馬のペットか?」
面白そうに、飛影君は蔵馬君を抱き上げました。
「ミャァッ!」
蔵馬君が否定します。
けど飛影君は抱き上げた事で猫が怒ったのかと思い、そっと降ろしました。
蔵馬君は困りました。言葉が言えなくては、どうしようもありません。
悩んだ蔵馬君は良い方法を思いつきました。
言葉が言えないのなら、書けばいいのです。
丁度よく、紙と鉛筆が落ちていました。
蔵馬君は必死で書き始めました。
けど、仔猫の体では、上手く書けません。
蔵馬君は泣きたくなりました。
「お前、鉛筆が好きなのか?」
飛影君は全然違う風に捕らえています。ますます蔵馬君は弱りました。
そこへ、花瓶の花が見えました。昨夜お母さんが飾ってくれたものです。
蔵馬君は、葉っぱでも何でも、落ちてないかと探しました。
植物を操れば、字をかけるかもしれないと思ったからです。
けれど、新しい花なのですから落ちてはいませんでした。
蔵馬君は途方に暮れてしまいました。
「何だ、花が気になるのか?」
丁度良く飛影君が花を取ってくれました。
蔵馬君は喜びました。これで飛影君も自分の事が判ってくれたに違いないからです。
(僕、蔵馬)
綺麗に書かれた紙を見ても、飛影君はすぐには信じられませんでした。
蔵馬は元妖狐ですが、猫に化けれるとは聞いた覚えがありません。
「本当に、蔵馬なのか?」
蔵馬君は一生懸命頷きました。
飛影君は戸惑いつつも、信じるしかありません。
「どうしてまたそんな姿に…」
言われたって、蔵馬君が判るはずもありません。
「困ったな…」
二人は、顔を見合わせてため息をつきました。
と、そこへ。
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 ピンポーン

ベルが鳴りました。それを聞いて、蔵馬君は思い出しました。
今日は幽助と桑原君が遊びに来る事になっていたのです。
それを蔵馬君が紙に書くと、飛影君は少し考え込むような顔をしました。
「あいつらか…ま、頼りになるとは思えんが、いないよりはマシか」
そう言って飛影君は戸を開けるためにドアへ向いました。
 ガチャ
「お?何だ、お前も来てたのか」
「珍しいな、お前が動いてやるなんて。
 いつもはジュースを出すのも蔵馬にやらせるくせに」
「……入れ」
勝手な事を言う二人に、やっぱり帰そうかと半ば本気で思いつつ、飛影君はそれだけを言いました。
「そりゃそのつもりだから言われなくても入るけどさー」
「蔵馬は?」
言われて、飛影はため息をつきました。何と答えれば良いというのでしょう。
「蔵馬は…ちょっと、厄介な事になってな」
言われて二人は、頭の回りに?を振りまきました。
「そりゃどーいう…」
飛影は、それ以上は何も言わずに、ただ戸の前で立ち止まってチラリと視線を投げかけ、ため息をつくだけでした。
「入るぞ」
キイッと小さな音をたてて戸をあけ、そう言って中に入りました。
けれど、中にいるのは行儀よく座っている猫だけですから、幽助達は不思議に思わずにはいられません。
「随分と可愛い猫だな〜。蔵馬が飼ってるのか?これ」
「それより、肝心の蔵馬は何処だ?」
「それが蔵馬だ」
「い!?」
猫を抱き上げていた桑原君と、それを見ていた幽助君が固まります。
「お、お前も冗談を言う事があるんだな…」
「お前ら相手に冗談を言ってどうする」
「じゃあ、本当に…?」
コクリ、と頷く蔵馬。けれど、そう言われたからといっても、すぐには信じれません。
仕方なく蔵馬君は、飛影君にしてみせたのと同じように、紙に『本当に蔵馬だよ』と書きました。
それを見ては、信じずにはいられません。
「マジかよ……」
天を仰ぐ幽助君と桑原君。
「何でまたそんな姿に…お前、とうとう本性に戻ってしまったのか?」
『僕は妖狐なんだけどね…』
「そだ、お前、お袋さんは?」
『もうじき来ると思う』
「じゃあ、早いとこ移動しなきゃな…説明のしようもないし」
その言葉に、4人は頭をかかえてしまいました。
「俺の家はアパートだしな…桑原ん家はどうだ?」
「多分大丈夫だろうけど…」
「どした?何か問題でも?」
「ああ。家にはすでに猫が15匹いる」
「捨てろ!」
「何だと?皆大事な可愛い猫達だぞ?」
「まあまあ。数日くらいなら一部屋くらい開けれるだろ?
 まさかずっとこのままって事もないだろうし、さ」
仕方なさそうに、首をすくめる桑原君。
「んじゃ、今日は桑原の家に泊まりな!ご馳走期待してるぜ!」
「おい!どうしてそうなる?」
「蔵馬をこのままにしておけないだろ?」
「俺がいるだろが」
「…ほっといたら蔵馬が猫の巣に放り込まれそうだ」
「大丈夫だって。皆おとなしいから」
「信用できん」
「てっめえ〜」
「まあまあ」
怒る桑原を必死でなだめる幽助君。
いつもは蔵馬君が上手くなだめるのが、今回はできないため、幽助は大変です。
「さ、とにかくお袋さんの来る前に書き置きでもしていこうぜ」
4人はそのまま勢いで桑原の家に向いました。



夜です。
「さ、寝るか」
「蔵馬、こっち来い」
飛影君が呼ぶのに、トト、と蔵馬君が従います。
「寒いから入っとけ」
そう言って、飛影君は蔵馬君を自分の布団に入れました。
それを見ていた幽助君が、からかうように言いました。
「潰すなよー」
「誰が!」
怒る飛影君に、幽助君は笑い、そして優しげな表情になって、言いました。
「安心しろよ、蔵馬。絶対に、見捨てたりしないから、さ。
 例えお前が犬になろうが猿になろうが、付き合ってやるからな」
嬉しくなった蔵馬君は、無意識の内にのどがゴロゴロと鳴っていました。
飛影君に以前言われた適応力の高さは、猫になっても有効なようです。
友情、というものでしょうか。
優しい気持ちに包まれて、蔵馬君は眠りにつきました。
それを見届けて、飛影君も眠りにつきます。
暖かいのは、布団のせいだけではなかったでしょう。



そして、朝。
飛影君は重苦しく感じて目が覚めました。
すると、そこには元の姿の蔵馬君がいたのです。
「おい、蔵馬!戻ったぞ、お前!」
「え…?」
半分寝ぼけたまま確認した蔵馬君は、一気に目が覚めました。
「戻った〜」
その声があまりにも大きかったので、あとの二人も目が覚めました。
「おぉ?良かったな、戻れて」
「一時はどうなるかと思ったけどな」
しばらく、喜びにふける4人。
そこへ、ふと幽助君が思いついて言いました。
「しかし…何でまたこんな事になったんだろな?戻れたからいいけどさ」
「本当だよな…何か変な薬でも飲んだのか?」
「飲むわけないでしょう」
「…何か食ったとか、本当にないか?」
「変な物を食べた覚えは無いんですけど…自分で作ったのを食べてますし」
「何作ったんだ?」
「昨夜、ですか?え〜と…(グロいので省略;蔵馬の品性の保護のためにも…;;;)これくらいで、別に変なものは…」
「お前、それだと何がおきてもおかしくないぞ;」
「よく死ななかったな、そんなの食べて…」
「変、ですか?」
「変だ」
きっぱりと言われて、首をひねる蔵馬君。
「飛影…今度からお前が作ってやったらどうだ?」
「……」
首を捻る蔵馬君を尻目に、何があっても蔵馬君の料理だけは食べるまいと、心に誓った3人でした。

その後、再び蔵馬君が仔猫になってしまったのですが、これはまた別のお話。

凄く平和に、時間は過ぎていったって。

おしまい(まる)