病気も愛で治せ?

「蔵馬…」
目を抑えながらの、飛影の声。
何処か不安や怯え、戸惑いといった響きを宿した声に、不安になる。
「どうしたの?飛影」
「蔵馬ぁ…目が、おかしんだ……」
ぐらり、と飛影の身体が傾ぐ。
オレは慌てて駆け寄り、その身体を支えた。
「見えない…蔵馬、何処…?」
「飛影!ここにいるよ!」
「くら……」
呟きが闇に呑まれる。
心が、凍り付くかと、思った。



「ダメだ…」
オレは呟くと、唇を噛み締めた。
「飛影……」
眠っている飛影の髪を撫で、そっと額に口付けた。
閉じられている瞼にも、唇を下ろす。
口付けで癒せるならいいのに……
飛影の目…毒素が細胞を覆ってしまっていて、それで見えなくなったのだった。
少し前に魔界で沼に潜った事があるらしいから、そのせいかもしれない。
「貴方らしくもない……」
軽率な真似をするなんて。
オレはまた、瞼に口付けた。
毒素は…中和できそうにもなかった。
もう少し早く気付いていれば、まだ手の施しようもあっただろうに……
飛影の、思いの他柔らかい髪を撫でながら、オレは一つの決心をした。
「飛影…貴方は怒るかもしれないけど……」
それでも、貴方が好きだから。
オレは飛影をそっと抱き上げると、部屋を後にした。



「蔵馬…」
コエンマは、悲痛な面持ちで、声を紡ぎ出した。
「お前は…それでいいのか?」
「勿論。でなければ、こうしてお願いする訳がないでしょう?」
「正論だ」
コエンマが、そっと嘆息を洩らす。
「本当にお前という奴は…たった一人の人以外には、何処までも残酷なのだな」
「仕方のない事でしょう?想いが交錯してる以上、ひずみは免れれない」
「まあ、な。だが、少しは報いようと思ってはくれないのか?ワシもこれ程にお前を慕っていると言うのに」
「生憎ですが、目移りしない性質なものでね」
「一晩ぐらい相手してくれたっていいだろうに」
「人形で良ければ構いませんけどね。…いつまではぐらかすつもりですか?」
「やはり無理、か」
「当然」
「まったく…お前に懸想してる男にこんな事をさせるとはな……」
「仕方がないでしょう。オレだって、好き好んで貴方を選ぶほど、性格は悪くはないですよ。普通の手術ならその辺の医者にもできますが、妖気も絡むとなれば……。かと言ってぼたんさんには辛い仕事でしょう?」
「ワシにも辛い仕事なのだが?」
「オレはフェミニストなんでね」
「それは初耳だ」
く、と笑う。
「冗談はさておき…やってくれますよね?」
「ああ、致し方あるまい」
こっちだ、と先導するコエンマについて歩く。
飛影……
待っててね、と胸の内、囁いた。



「蔵馬!」
飛影の怒鳴り声。
やっぱり来たか。
「どういう事だ、これは!」
「どうしたの?」
「俺の、目!何で緑なんだ!」
答えないオレに飛影が寄って来て、布団を剥がした。
「飛影、寒い」
「五月蝿い!目を見せろ!」
「眠いんだよ」
「いいから見せろ!」
嵐のような飛影に、そっと苦笑する。
仕方なくオレは、ほら、と目を見せた。
飛影の目に、赤い目が映る。
「やっぱり……」
「勝手にやってごめんね。でも、悪いとは思ってないから」
「バカ、目が見えなかったら、会社とやらはどうするんだ」
「心配してくれてるの?嬉しいなあ。でもオレは、時間はかかるけど毒素は中和できるから大丈夫だよ」
「だからって……」
「見えなくて困るのは貴方の方でしょ。見えてても貴方の戦い方は危なっかしいのに」
「……」
「さ、もう寝よう。こっちは身体は人間なんだから、手術は堪えるんだよ」
言って飛影をベッドに引きずり込む。
飛影は珍しく大人しかった。
「しばらく食事が作れなくなっちゃうけど、ごめんね」
「バカ……」
オレはクスリと微笑むと、眠りに身を任せた。
たった一つの宝石を抱きしめて…夜は静かに過ぎて行く。

end