月が翳るまでは

月の光が、柔らかに部屋を包み込んで。
蔵馬が、淡く浮かびあがる。
優しげな笑みで蔵馬は俺を覗き込み、俺はそれを無言で見つめる。
それが日課となっていた、もう大分前から。

「貴方とここにいるようになってから、どのくらいたったっけ」
答えを求めてはいない響きで、蔵馬が言う。
そしてクスリと笑った。
「まるで最初からこうしていたみたいだ」
うっとりとしたような微笑みを浮かべて、蔵馬が口付けを落とす……
俺は応える訳ではなく、ただ、目を伏せた。
それは嫌悪とも歓喜とも、違って、いた。


 貴方が、何時何処で傷付くともしれないから……
 お前が、何時いなくなるともしれないから……
  ここにいよう、ね

 貴方が生きている限りは
 お前がここにいる限りは
  貴方のために生きるよ
  お前のためにここにいるよ

 でももし貴方が終る時は
 もしもお前が消える時は
  オレの命も連れていきなよ
  俺も消えるだろう

 互いの身体を繋ぐ鎖で……
   魂までも……
     繋ぎとめて……


蔵馬。
お前は何処まで落ちてくれる?
どこまで見せてくれる?
なあ蔵馬……

時の終りを
 世界の終りを
  ここで見よう
永遠すら捕まえて見せる
 貴方と一緒なら

緩く時が凍り付く
世界にはただ2人だけ……

「最初からこうしていたと言うのなら、それが真実だろうな」
『本当』は知らない、いらない。
こうだと思えば、それだけが真実だ。
「きっと、そうだよ」
可笑しげに蔵馬は笑った。
「オレは君のために生まれてきたんだよ」
そして君と在るために、ここにいる。
そっと、口付けを交わす。
チャリ、と鎖が鳴る。
俺達をここに繋ぎとめる戒め……
その音が、その冷たさが、安心させた。
鬱陶しさなど微塵も感じる事はなかった。
そう、俺達は在るべき姿に戻っただけなのだ。


緩やかに、部屋に闇が侵食してきた。
「蔵馬…月が翳る」
この結界の中でただ一つの光、月。
その淡い粒子は、少しづつ暗さを増していた。
「眠るといいよ」
優しく蔵馬が囁く、闇は必要ないと。
「でも…もう少しこのまま……」
月が翳るまでは、抱いていて。
お前の微笑みを、記憶に刻み付けさせて。
月の見えない間は、お前が見えないから……
お前の温もりに抱かれて、お前の夢を見よう。

けれど今はもう少し……
月が翳るまでは……

end