愛し過ぎる花

「なあ……」
「うん?」
 掛けられた声に蔵馬は、何、というように振り向いた。
 その手は服のボタンをかけ続けている…帰る気なのだ。
「もっと沢山来られないのか?」
「毎日来たいけど、そしたら飛影がもっと辛いことになるよ?」
「その方がいい」
 俺はプイ、と顔を背けた。
 その言葉は真実…そう、俺は傷を望んでる、俺にとっては会えない時を数える方が余程辛いのだ。
 会えない時は、この身体に付けられた幾多の傷とこの手首の冷たい鎖が、慰めてくれる。
 蔵馬を思う時傷は熱く疼き、鎖は冷たく撫ぜる。
「ダメだよ、飛影が壊れちゃったらオレはどうすればいいの?それとも、気遣いあった優しいSEXで貴方は満足できる?」
 唇を噛み締める……満足なんてできる訳がないし、第一、二人とも抑えれるわけが無いのだ。
「でも…消えそうになる傷を見ると、哀しいんだ」
 お前が遠ざかってしまいそうで。
 この傷は、お前に所有されている、証。お前の存在を証するもの。
「会えない時があるから、人は求めるんだよ。『日常』に有難味はないでしょう?」
「お前のそういう利口さが、嫌いだ」
 憮然として言う。
 蔵馬はクスクスと綺麗に笑った。
「オレは貴方のそういう計算高くなれないとこ、好きだよ」
 にっこりと、蔵馬が言う。
 その微笑だけで。全てを許してしまいそうになる俺がいる……
「会えない時はオレを思えば良い。オレもお前を思ってるから、二人は同じ気持ちでいるんだよ、それも素敵じゃない?」
「お前は…本当に嫌な奴だ」
「それは、願ったり」
 蔵馬がニ、と笑む。
「今度からは、もっと長くいれるようにするよ。消えない傷を沢山つけてあげる」
 それは、嘘。薄れない傷があるはずはない。
 それでも蔵馬の心は本当……
 だから許す。だから腹が立つ。
「傷は歓迎だが……植物を使うのだけはヤメロ」
 言った後から、顔が僅かに熱くなるのを覚えた。
「何で?最中は気持ちよさそうにしてるじゃない」
 からかうような声音は、知っているんじゃないか、と思わせた。
 けれど言葉を止める訳にもいかない。
「俺は…お前に傷をつけられるのがいいんだ。余計なものは使うな」
「立ってる物は親でも使え、ってね。より気持ち良くなるためには、少しぐらい小道具を用意しても良いんじゃない?」
「良い訳あるか!」
「オレは飛影のためにやってたのに…」
 ホロホロと、蔵馬が泣きまねをする。
 完璧、楽しんでる……
 怒りを察知してか、蔵馬はチラリと視線を向けると、クスリと笑んだ。
「オレがやる事に変わりはないんだけどなあ」
「間接じゃ意味がないんだよ!」
「つまり、それだけオレは愛されてるって訳か、嬉しいなあ♪」
「どう取っても構わんから…頼む、これ以上俺を疲れさせるな……」
 グッタリとして言う。
 この男を説得する方法というものは、果たして有るんだろうか?
 チラリと蔵馬を覗き見るに、方法はありそうになかった。
「タチの悪い男に捕まったものだな、俺も」
「そう?相性は最高だと思うんだけど。オレは貴方の全てを受け入れれるし、貴方もオレの全てを受け入れれる、心を偽ることなくね」
「偽ってるかもしれないぞ?俺はお前など愛してないかもしれない」
 挑発するように言う、けれどそれはサラリとかわされた。
「嘘だね。この鎖とその傷が、その証。貴方は逃げることも拒むこともできる、貴方は自ら捕らわれてるんだ」
「だから…その利口さが嫌いだ」
「馬鹿がお望みならいくらでも馬鹿になってあげるけど?」
「いらん!馬鹿なお前など想像できるか」
「認めてくれてる訳だ」
 蔵馬の笑みの周りには、♪でも見えそうだった……
「もういい、行け」
 顔を背けて、手を振る。
 どうせ束の間の別れだ…俺も蔵馬も逃げられはしないのだから。
「うん…行って来るよ」
 帰る、ではないのだ。行って来る。
 それはつまり、蔵馬の居場所はここだという事。
「飛影」
 顔を上げると…キスされた。
 唇を交わすだけの、口付け。
「またね」
 その、約束があるから。
 俺は蔵馬と別れれる。
 黙って見送ることができる。
「またな」
 応えてやると、蔵馬は本当に嬉しそうに笑んだ。

end