即興詩 †月の魔力†

紫紺の空に紅き月 禍禍しいその光
あれは 月の涙か 月の悲しみか

月のその冷たき光 慈悲など知らぬげな
ただ見るものに不安を与えて 恐怖を与えて

だからだ
こんなにも胸が騒ぐのは
こんなにも胸が痛むのは

月の冷たさは 全てを凍てつかせる

そうして
月の哀しみは何であるか
 全てを凍てつかせ
 全てを閉じ込めて
判らなくなるのだ

恐怖も不安も憂いも 全てはその紅に解け込んで――

そうして
何も見えなくなるのだ
何も判らなくなるのだ

全てをその紅は消し去って――

ただ 静寂だけがそこに残る



鳥の羽音が
猫の足音が
  聞こえる

月の光を受けて
 猫の目が妖しく光る
  金の双月が魔力を宿す
その魔力に捕えられて
 鳥は動きを止める

微かに羽音が闇に響く
 一時の後に
  闇に再び静寂が戻り
そうしてそこに残るは
 何事も無かったように手を舐める猫と
  黒く小さな影だけ――

月を見てはいけない
 月を思ってもいけない
  あれは聖女ではなく魔女であるのだから――



紫紺の空に浮かぶ月 その紅き色
あれは ひとを惑わせる

弱き心で月を見てはいけない 惑わされるから
弱き心で月を思ってはいけない 虜にされるから

もし月を見たいなら
 思いたいなら
月を惑わすだけの
 虜にするだけの
  強い心で
見るといい
 思うといい

月の紅き光
永遠の処女たるアルテミスのその涙を その哀しみを
受けとめれるだけの心があるならば――